最近良く聞く言葉が「デジタル田園都市国家構想」です。
田園都市というとちょっと郊外の、農地と都市が共存するようなエリアであるとイメージできます。東急に田園都市線があるように、昔からある言葉です。
その田園都市に、なにやら「デジタル」がついてきました。いったいどういう意味なのでしょうか。
岸田政権では、このデジタル田園都市を主要な政策の一つとして位置付けています。
今回は、デジタル田園都市とはなんぞやということについて調べてみました。調べてみたら、実は個人的に徐々に実践しつつあることでもありました。
デジタル田園都市国家ってなに?
最近よく聞くので、岸田総理が言い始めた概念であると感じてしまいます。実際のところは、自民党のデジタル社会推進特別委員会で取りまとめられた「デジタル・ニッポン2020」という提言の中で中心概念として据えられているのが「デジタル田園都市国家」です。
ちなみにこの提言は、デジタル庁長官に就任された牧島かれん氏が中心となって取りまとめられています。
そもそも田園都市とは?
田園都市と聞いて想像することといえば、通勤で1時間程度かかるような、大都市のちょっと郊外のエリアのことでしょうか。マンションというよりは、庭付きの一戸建てに住んでいる印象です。街の中心部から少し離れると、農地も散見されます。休日になると、車でイオンモールへ買い物です。
しかしこのイメージって、田園都市というよりは「ベッドタウン」ですね。オフィスがある都心部の不動産は高いので、なかなか買えるものではありません。多少に通勤に不便であっても、買える価格の郊外に住まいを構えるのがベッドタウン。かつては郊外に「ニュータウン」がたくさん造成されました。多摩ニュータウンや千里ニュータウンが有名ですね。
こうした都市は厳密には田園都市ではありません。デジタル・ニッポン2020の冒頭では、大平正芳元首相の言葉が引用されています。
「都市の持つ高い生産 性、良質な情報と、田園の持つ豊かな自然、 潤いのある人間関係を結合させ、健康でゆと りのある田園都市づくりの構想を進める」
つまり都市の持つ生産性と、田園の豊かな自然の調和が「田園都市」です。高い生産性を持つということは、そこに仕事があるということ。ベッドタウンには仕事はなく、大都市部に通勤(痛勤)しなければなりません。田園都市の重要なポイントして、「職住接近」があります。
豊かな自然を身近に感じながら、仕事にも困ることなく十分な収入を得ることができる、それが田園都市なのです。
デジタル田園都市とは?
とはいえ、ベッドタウンは各地に存在しても、本来の意味の田園都市は見られませんでした。どうしても企業は都市部に集中するのであり、特に東京に一極集中しました。企業で働く人は、オフィスのある東京などの都心部へ、通勤電車で痛勤せざるを得ませんでした。いまだに台風などの災害が発生すると、郊外の駅に長蛇の列が出来上がります。
今回の不幸なコロナ禍の中で良かった点をあげるとしたら、それはテレワークが一般化したことでしょう。インターネットを介して、家にいながらオフィスの仕事ができるようになりました。ワーケーションといって、リゾート地で働くことも提唱されていたりします。
つまり、どこにいてもネットに繋がる環境であれば、大都市部のオフィスと同じ働き方ができつつあります。
提言の中で、デジタル田園都市国家の概念として、このようなことが書かれています。デジタライゼーションの結果、下記の事柄を実現します。
・地方にいても大都市並みに仕事ができ、収入が得られ、楽しく幸せに暮らせる
・感染拡大も防止でき、長時間通勤の苦労から解放され、地方の活性化にも貢献
・経済(所得)、生活(利便性)、幸福感のポジティブサイクルを回す
デジタル田園都市国家の理想像、目的とすべきこと
では、デジタル田園都市国家では、どのようなことが実現されるのでしょうか。提言の中では、様々な理想像が述べられています。ちなみにデジタル田園都市を実現する目処として、2030年が設定されています。
・デジタルワーキングスタイル
・オンライン医療
・オンライン教育
・個人情報データの有効活用
・行政のデジタル化
・サプライチェーンの国内回帰
・地方分散を支えるデータ連携基盤
・どこでも楽しめるエンタメ
・災害時のリアルハザードマップ
上記のようなことが2030年のデジタル田園都市の理想像として掲げられています。これまではどうしようもなかった物理的な距離。それをデジタルによって克服することが目的です。このようなことが実現すれば、まさに遠隔の地方であっても、都心と同じように働いたり、教育を受けたり、サービスを享受することができます。
しかもここに挙げられていることは、現時点でも技術的に可能なことですし、徐々に広がりつつあることでもあります。DXの萌芽をきちんと育てようということですね。
個人的に実践中のデジタル田園都市的なこと
そういえば、個人的にそんなことをしつつあるなと感じています。
地方にいながら、大都市と同じ仕事をして、同じような給料を得る。デジタル田園都市の概念の一つです。
ここで、自分の状況を。
家は広島市内に構えています。広島へ転勤したときに結婚したから。大阪生まれですが、今は心は広島の人です。タイガースより、カープですね。
仕事は会社員。本社は東京です。なので東京基準の平均以上の賃金は得られていると思います。
そして今の勤務地は大阪。単身赴任です。とはいっても、安い移動手段を駆使して、週末は広島に帰るようにしています。
広島には土日だけ滞在する訳ではなく、テレワークを組み合わせて、より長く家族との時間を確保しようとしています。
だいたい金曜日に広島の家に帰り、週末を過ごします。日曜日に帰るのではなく、月曜はそのまま広島でテレワーク。火曜も続けてすることも。あるいは、木曜日に帰って、金曜日は広島でテレワークというパターンも。
まるまる一週間広島でテレワークすることもできるでしょう。
最近NTTでは、基本的にテレワークで業務ができるようにして、社員を転勤を廃止するようです。また、JTBでは遠隔地での勤務も認められるようになりました。
うちの会社は、まだ制度として上記2社のようにはなっていませんが、実際のところそれに近いことができています。
広島市内は田園都市というには大きすぎますが、東京や大阪に比べて都市の規模も小さく、ちょっと出かけたら自然に触れ合うことができます。現在平日は大阪に滞在している訳ですが、住みやすさという点では断然広島です。
そんな広島にいながら、大阪の仕事をして、東京基準の給与を得られる。まさにデジタル田園都市を少しだけ実践しているのです。
まとめと考察
自民党は伝統的に地方重視の政策でした。地方交付税交付金や、田中角栄の日本列島改造論が代表的ですね。
このデジタル田園都市国家構想も、どちらかというと東京一極集中を是正して、デジタルの力で地方活性化を目的とする政策です。
地方都市に住んでいる立場でもあるので、東京一極集中を是正して、地方にお金や人、仕事が流れるようにしなければ、日本全体の成長に繋がらないと考えています。
東京一極集中は、少子化の要因ともなっています。
解決策としては、企業の地方への移転でしょう。パソナの淡路島への移転が話題となりました。ただ、これは極端なケースだとしても、地方の中心都市に移転が進むようなことが起こっても良さそうです。
例えばアメリカは、大企業の本社のほとんどがニューヨーク集まっているようなことはなく、全米の各地に分散されている印象です。日本だとなぜかみんな東京に。
大阪にも企業の本社がたくさんありましたが、ほとんどが東京に移してしまいました。
東京に集まる理由は、人や情報の集まる地域にいることが、有利であり便利であるからでしょう。
デジタル田園都市国家だと、どこにいても都心と同じ働きが可能。そうであるなら、東京に人が集まる必要はありませんし、企業だって。
デジタル田園都市を実現するには、DXの進展だけでなく、人の働き方や、そもそもの考え方の変換が必要です。
もしかすると、デジタル田園都市国家って、停滞する日本を作り直すキーなのかもしれません。