全国に営業所はもういらない?
アサヒグループホールディングスが、全国の営業拠点を集約させる旨の報道がなされました。半分以下に削減するのです。
思い切った取り組みですよね。ビール業界って、どちらかというと顧客の小売店や飲食店を回ってなんぼというイメージがあります。とにかく顧客に密着する必要がありそうですが、リモートでも何とかなるということなのでしょう。
さらに、工場でも積極的にリモートを導入するらしい。工場こそ、人がいないと業務ができないような気がします。
遠隔でラインが制御できるそうです。家にいながら工場設備を動かせるのでしょうか。そう考えると、すごいですよね。
このニュースを聞いて思ったのが、ますます地方の弱体化が進むのではないかということ。真っ先に閉鎖されるのが、地方の売上規模の少ない営業所でしょう。
個人的には、大企業の地方営業所で勤務することは、何かとメリットが大きいと考えており、この動きは多少残念な思いがします。
ただ、今後このような動きは加速するでしょう。そもそも営業所なんていらなくなるかもしれません。
テレワークが地方の営業所に何をもたらすのか。考えてみたいと思います。
アサヒのニュースについて 営業拠点を集約
共同通信によると、アサヒビールなどを擁するアサヒグループホールディングスは、全国に55ある営業拠点を26まで削減します。半分以下まで減らしてしまうのです。
社内ではテレワークを推進中。製造業はなかなかテレワークが難しいとされてきましたが、顧客対応も含めてテレワークで可能との判断なのでしょう。
さらには、工場でもテレワークを導入するそうです。工場こそ出社しないとどうにもならない感じがしますが、家から遠隔監視や操作ができるようにするとのことです。
ただ業務を効率化するだけでなく、生産性を向上させることが目的です。
アサヒがうまくいけば、他社が追随する動きが出てくるでしょうし、ビール業界に限ったものにならないはず。
日本中の企業で、仕事のやり方が大きく変わっていきそうですね。
テレワークにより企業が地方営業所を構えるメリットは消え去る?
テレワークが本格化すると、オフィスで働く必要性が減少しますし、遠方の顧客とも難なくやり取りできるようになります。
下にあげるような、企業が地方営業所を構えることのメリット。どうも業務がオンライン上でできるなら、メリットはかなり小さくなりそうなのです。
地方営業所のメリットと、それがメリットでなくなる理由を考えます。
顧客への距離が近い
企業が地方に営業所を置く最大の理由は、顧客が地方地方に分散しているから。顧客がほとんど東京なら、地方に営業所を置く必要はありません。
これまでの営業スタイルは、顧客が要望する時にすかさず対応することが求められました。頻繁に営業マンが顔を出す会社に発注するということが普通でした。
顧客にきめ細かい対応をすれば売上の増加につながり、顧客が存在する限りその地方に営業所を設置するのは当然の対応だったのです。
しかし、コロナで状況が一変しました。ほとんどの顧客が「来訪お断り」となってしまいました。お客さんに行けなくなったのです。まあ、それ以前からでも「挨拶お断り」のように、用事も無いのに来るなという企業は増えていましたけど。
行けなくなって分かったのが、そんなしょっちゅう行かなくても大丈夫だということ。物理的に距離は遠くても、心理的な距離はさほど遠くありませんでした。大切な打ち合わせだって、わざわざ時間をかけて行く必要はなかったのです。すべてZOOMで事足りました。
顧客の安心感
顧客の側としても、何かあれば担当がすぐに来てくれるという安心感はメリットでありました。
しかし、状況が180度転換し、行ったら嫌がられることに。「来るな」と言われるようになりました。
その結果、顧客は取引先の営業マンがわざわざ来社しなくても、たいていのことは何とかなることが分かったのです。
そもそも営業マンの価値は、情報の非対称性が存在するときに大きくなります。かつては営業マンの方が情報を持っていました。営業マンに頼るしかなかったのです。
今では何でもすぐにネットから情報を得られます。下手な営業より顧客の方が知識を持っていたりします。
ネットで何でも注文できますから、ついでに要らないものを紹介して時間を奪われる御用聞き営業なんか必要ありません。
普段はネットで対応し、いざという時だけ営業が対応する。こんな感じの方が安心感を持ってもらえそうです。
地方自治体への入札参加
自治体によっては、入札参加の条件として市内や県内に拠点を設けていることを要求しています。なるべく自分の自治体内で経済が回るように取り計らうのは、当然の取り組みと言えます。
営業所を無くすことで、その自治体への入札に参加できなくなる恐れがあります。
まあ、難易度の高いプロポーザルなどはそのような縛りを設けないことも多いです。入札に参加する企業が減ったら、自治体としても大問題。地方の営業所をなくす動きが活発化したら、入札もこれまで通りという訳にはいかないでしょう。
そもそもビール業界は、関係なさそうですね。
リスク分散
BCPの観点から考えると、拠点が一箇所に集中するよりは、多数に分散した方がリスクを低減させることができます。全国に営業所が散らばることで、リスク分散のメリットがありました。
テレワークになると、さらにバラバラになりますね。社員は自宅やシェアオフィスで勤務できますから、拠点のオフィスが何らかの被害を受けたとしても、事業を継続させることが可能です。分散という点では、テレワークの方がメリットがありそうです。
社員の生産性向上
オフィスで働く最大の無駄は、通勤でしょう。大都市圏なら、1時間以上かけて通勤するのは当たり前。往復で2時間です。
また、仕事中の移動も無駄。移動時間は、何も生まない時間です。
このような無駄に対して、かつては地方営業所の開設が解決策でした。
地元に近い場所に家があれば、通勤時間の無駄を大いに減らすことができます。また、大都市圏と違って、地方だとオフィスがあるような街の中心部に近い場所でも家を構えられるかもしれません。
顧客との物理的距離が近くなることもメリット。無駄な移動時間が少なくなります。
ところが、オンラインで仕事が完結するなら、そもそもオフィスや顧客へ行く必要がありません。東京にいながら函館のお客さんとシームレスにやり取り可能。移動時間ゼロ。確かに営業所はいらなくなりそうです。
企業が営業所を削減するメリットは?
これまでは、メリットがあったからこそ企業は全国に営業所を設けてきました。
しかし、オンラインで完結するなら、そのようなメリットは消え去ってしまうようです。
では、地方の営業所を閉鎖したら、企業にとってどんなメリットがあるのでしょうか。
固定費の圧縮
まずは固定費が圧縮できます。
固定費といっても様々なものが考えられます。最初に思い浮かぶのが、オフィスの賃料ですね。それに付随する光熱費も削減できます。
地方で営業するなら車がつきもの。自動車のランニングコストや税金や、駐車場代も削減可能です。
営業所がたくさんあるということは、その数だけ「所長」がいるということ。管理職のポストが減ることになり、人件費の抑制になります。
また、顧客への訪問を前提としていたからこそ必要とした人数も、減らすことができるでしょう。
DXの推進
営業所があれば、どうしてもアナログな感覚が残ってしまいそう。顧客へ行かなければという想いが消えることはないでしょう。
営業所をなくして、強制的にオンライン化すれば、否応にも社内のDXが加速しそうです。
業務効率化
顧客への訪問が減りますから、これまで移動に費やしていた時間を他の業務に振り分けることができます。
製品の仕様といった大事な打ち合わせは、コロナ前は必ず顧客へ訪問してやってきました。大事なことは、対面で話をするのが当たり前。オンラインなんかでできる訳ないだろうと考えていたのに、、、売る方も買う方もZOOMやTeamsで全然問題ないことが分かったのです。
「行かなくていい」はかなり効率化に寄与します。早く家に帰れるようになったかも。
今後どうなる?残る拠点は?
アサヒグループホールディングスの場合、全国55の営業拠点が26まで削減されます。
なんと言っても、IT企業ではなく製造業であることがポイント。この動きは他の企業にも波及していくに違いありません。
今後営業所は、政令指定都市や中核市に集約されていくのでしょう。
四国を例に考えてみます。四国の大きな都市は、愛媛県松山市、香川県高松市、高知県高知市、徳島県徳島市の県庁所在地4つです。
この中で危険性が高いのは徳島市。4市のうちで唯一中核市に制定されていません。他市と比較して人口規模も小さめです。
また、地理的にも大都市である高松市と比較的近く、高松から営業することも可能。車で1時間ちょっとで行けます。コスト削減の煽りを受けて、真っ先に消えるのは徳島の営業所でしょう。高松の営業所に集約されます。まさにうちの会社がそうでした。しかも淡路島を通れば、神戸から車で1時間半程度。徳島は関西からも近いのです。
その高松も実は危険。瀬戸内海を挟んで、岡山と目と鼻の先。瀬戸大橋を経由して車で1時間20分程度。しかも、瀬戸大橋は鉄道が通っているので、JRでも行けてしまいます。「岡山から行けばいいか」という判断をされてもおかしくありません。
四国で営業所を構えるなら、地理的に離れている高知市と、人口50万人を超える松山市だけでOKとなりかねませんね。
松山市は、直線距離では広島市と近いですが、陸路は尾道経由でしまなみ海道を渡らなければならないため、車で3時間程度かかります。片道3時間は営業できる距離ではありません。企業が営業所を削減するとして、四国で最終的に残るのは松山市であると考えられます。
こうした考えって、実は他人ごとではありません。全国規模の会社に勤めているなら、転勤で地方に行くことも考えられますし、そこで結婚して家を買う可能性だってあります。何を隠そう自分がそうですから。
家を買うなら、将来的に営業所が無くなりそうな都市では買いにくいです。自分の会社は関係なくとも、他の会社が営業所を閉鎖してしまうと、その都市の活気や地価に影響します。
家を買うなら、なるべく中核市クラスの都市が良さそうです。なるべくなら政令指定都市で。
まとめ
アサヒビールが始めようとしている地方営業所の再編。確かに社内も顧客もオンライン上でのやり取りが当たり前になってきましたので、わざわざ物理的に顧客の近くにいるメリットは薄まってきました。
しかも今はテレワークの黎明期。今後ますますこの傾向は広がるし、強まっていくでしょう。
ただ、個人的にはあまり嬉しくありません。こんな記事を書いているように、大企業の地方営業所って結構メリットが大きいのです。ずっと地方で仕事をしたいと考えている自分にとっては、この動きはあまり歓迎すべきものではありません。
とは言っても、これからオンライン化はますます進展するでしょうから、今回のアサヒのような施策はどんどん一般的になっていくでしょう。東京一極集中がさらに進行しそうな気がします。
地方営業所の再編と並行して、本社の地方移転も進んで欲しいところです。