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ナッジってなんだ?ナッジ理論を簡単に解説します。ナッジってどのように使われているのでしょうか。

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最近「ナッジ」という言葉をよく耳にします。「ナッジ」ってどういうこと?どのような場面で使われているの?この記事で簡単に解説したいと思います。

実はすでに生活の周りにはナッジの存在が見え隠れしており、様々な場面で活用されています。企業だけでなく、政策の実現のため国や地方自治体もナッジの取り組みを強化しています。

まずナッジ理論の概要を簡単に解説し、活用事例をご紹介します。知っておけば仕事でも役に立ちそうな、大変面白い理論です。

 

 

 

 

ナッジ理論ってなに?どういうこと?

ナッジ理論とは、心理的に働きかける要素により、人々の行動を誘導しようということ。決して強制したりあからさまインセンティブを用意するのではなく、対象者が自分の意志で決定することがポイント。

身近な例で言えば、塀に書かれた鳥居のマーク。この目的は、立ちションをやめさせること。神様にオシッコをかけたらバチがあたるというふうに考えて、下ろしかけたチャックを元に戻すでしょう。

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あからさまに「立ちション禁止」と書かれた看板を掲げるのではなく、ちょっと鳥居マークを書いただけで人の行動を変えてしまうのです。

あまりきれいな例ではありませんが、ナッジのことを理解するのにもっとも分かりやすい事例だと思います。

まあ、外国の人には効果が無さそうですね。日本人の文化に根差したナッジと言えるでしょう。

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ナッジ理論は、行動経済学がベースになっています。ノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラー教授らによって提唱されました。

従来、経済学は「経済人仮説」をもとに理論が構築されていました。人はあらゆる選択肢を考慮の上、もっとも合理的な判断をするだろうという仮説です。

しかし、人は必ずしも合理的には行動しません。例えば、多少値段が高くても馴染みの八百屋で大根を買ったりするでしょう。経済人仮説なら、もっとも安いスーパーを選ぶはずなのです。

そのような考えから生まれたのが「行動経済学」。経済学に心理学の要素を組み込んだ学問です。

つまりナッジは、心理的に人々の行動や意思決定に影響を与えることを目的とした理論です。

 

「ナッジ」の言葉の意味は、「肘でそっとつく」こと。ちょんと肘でつくように心理的な後押しをすることで、行動を一定方向に促そうという訳です。

大事なのは、自分の行動は自分で選ぶということ。強制的に選択させるのではなく、そして大きなインセンティブを与えるのでもなく、あくまでも自分の意志で選択します。ナッジはその選択をするように促す「仕掛け」と言えます。

 

ナッジは「EAST」の4つのフレームワークを使用する

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ナッジは「EAST」の4つのフレームワークで構成されています。Eは「Easy」。以下「Attractive」「Social」「Timely」の4つです。

これらは言わばナッジの使い方。これらを意識することで、よりナッジを導入しやすくなります。

 

Easy(イージー、簡単)

なるべくシンプルに簡単にメッセージを提示します。

例えば、選択肢。たくさんの選択肢を用意するのではなく、少数に絞ってあげた方がそのサービスを利用する確率が高まります。

前もってデフォルトを提示するのも効果的です。明確に指示を与えてあげることで、人はそれに従いやすくなります。

約束の日など、こちらから特定の日を指定することで、それが守られる確率が高くなります。

人は選択をするにも労力を使います。なるべく選ばなくてもよい方が望ましいのです。

 

Attractive (アトラクティブ、印象的)

注意を引き付けること。

派手な色やイメージで注意を引きます。例えば人の顔。棚に色々な種類のパンフレットが並んでいるとして、人はどれに注意を引くでしょうか。それは、人の顔がデザインされたもの。人間は本能的に他人の顔に注意を向けるのです。さらに、人の顔じゃないものまで顔に見えたりすることも。心霊写真なんて典型的ですね。それを「シミュラクラ現象」といいます。

また、人の損得感情を刺激することも効果的。特に損をする場合、人はより大きな反応を示します。これは行動経済学の理論の一つとして、「プロスペクト理論」と呼ばれています。得をするよりも、何かを失うことの方が抵抗感が大きいのです。

 

Social(ソーシャル、社会的)

人は社会的な生き物。他人の目や行動がどうしても気になってしまいます。

YouTubeを見ていると、モーニングルーティンや持ち物を紹介する動画が人気あるようです。他人がどんな生活をして、どんなものを購入しているのか、どうしても気になってしまうのでしょう。

このような人間の性質から、「他の人はもうやっていますよ」という投げかけが効果的なのです。

またコミットメントつまり約束も効果的です。日時を相手に決めてもらうことで、その約束が守られる確率が高くなります。

 

Timely(タイムリー)

適切なタイミングでアプローチすること。

それをもっとも欲しいと思うタイミングでアプローチすると、かなり効果的に訴求することができます。

例えば保険。人が保険加入を検討するのって、就職、結婚、子どもの誕生など人生の限られたタイミングです。そういうタイミングで保険を紹介することで、成約する確率が高くなります。

また、期限の少し前にアプローチするのも効果的。例えば督促状。期限日に近づいてから督促した方が、かなり手前で督促するより未納が減少しました。

 

 

 

ナッジってどんなことに使えるの?ナッジの活用事例

ナッジってどんなことに使えるのでしょうか。まずもっとも活用されているのは、商売の現場でしょう。

例えば、松竹梅。選べるグレードが3種類に分けられていることってよくありますよね。この場合、多くの人は竹つまり真ん中のグレードを選択します。

一番安い商品よりは高い方が良いものだろうという心理と、高いものを選んで失敗したらどうしようという心理が働き、真ん中を選んでしまうのです。「ゴルディロックス効果」と呼ばれています。上のフレームワークでいうと「Atrractive」に該当します。

もっとも利益率が高く多く販売したい商品を、選択肢の真ん中に設定するという方法が考えられますね。

ただ、選択肢を3つ以上に増やしたらどうなるでしょう。恐らく買うのをやめておこうという人が増えるでしょう。選択肢を増やしたら、選択に頭を使う必要があるから。なるべくEasyにしなければなりません。

 

通販に多用されるナッジ 

通販には数多くの仕掛けが盛り込まれています。

よく目にするのが、「100個限定!」や「本日限り!」という言葉。早く買わないとお得なタイミングを逃してしまう!と思ってしまいます。

これはプロスペクト理論が活用されています。つまり、「お得なタイミングを逃す」=損失と感じられることから、購買行動へと駆り立てるのです。

 

例えば、アンカーリング効果。最初に「39,800円!」と発表した後、「今回はさらに1万円引きで、なんと29,800円!」と伝えるのです。

最初に提示された価格がアンカー(船のいかり)となって意識に刷り込まれるので、値下げ後の価格が安い!と感じてしまうのです。本当は元々29,800円だったとしても。

「〇〇の5点セットで、、、29,800円でお願いします。」

「▲▲さん、もうちょっといけるでしょー」

「えー、まいったなー。分かりました!もう少し勉強して、19,800円で!」

「えーっ!この5点セットで19,800円ですか!これは安いですね」

まさにアンカーリングです。

 

自治体の業務にも活用されるナッジ 

このように、商売の現場では様々なナッジのテクニックが駆使されています。

民間だけでなく、国や地方自治体でもナッジの取り組みがなされています。ある政策を、より良い方向に広げられるようナッジが活用されています。

例えば、健診業務。がん検診や特定健診など、各自治体は健康診断に助成を行なっています。将来的な医療費を増やさないため、予防の観点からですね。

ところが、どの自治体も低い受診率に悩んでいます。受診率の向上は、どの自治体でも課題なのです。かといって予算も限られますから、大々的なプロモーションなども不可能。そこで、比較的低予算で導入可能なナッジ理論が注目されているのです。

 

例えば、健診を知らせる通知物のデザインに、ナッジが組み込まれています。「健診のキットをお送りしています」という文面から、「今年健診を受けないと、来年はキットをお送りできません」に変えたところ、受診率がアップしたそうです。

健診キットが届かなくなるという喪失感を刺激したのです。これまで無料でもらえていたものがもらえなくなります。もらっている時は何とも思わなくても、いざもらえないとなると失う痛みを感じてしまいます。プロスペクト理論が活用されていますね。

 

通知物のデザインとしては、このような表現も用いられています。「二人に一人は健診を受けています」や「90%以上の方は受診しています」など。他の人はみんな健診に行っており、行かないのは少数派であるという印象を持たせるのです。

特に自分と同じ属性の人の動向は気になります。そこで、「60代男性の~」というように属性を追加すればより効果的になります。

 

トイレにあるナッジ

ナッジを語る上でもっともよくあげられるのが、オランダのトイレ。 男性用の小便器にハエを描くことで、床の掃除が減ったそうです。どうしてもハエを狙いたくなるんですよね。今ではあちこちのトイレの小便器にハエがいます。丸い的が描かれていることもありますね。

 

あと、よく見るのがこういった張り紙。「いつもきれに使っていただきありがとうございます。」何にもしてないのに、いきなりお礼を言われると、何か返したくなります。きれいに使わなければという意識が働くようになります。「返報性の原理」と言います。

 

最近駅のトイレでよく見かけるのがこんなトイレ。スマートなデザインでかっこいいですよね。スタイリッシュです。前面へのサイドの張り出しが抑えられているので、より便器に近づいて用を足すことができます。周囲への飛び散りを防ぐには、なるべく便器に近づくのが良いそうです。

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ただ、個人的にはこの小便器、あまり好きではありません。サイドの張り出しが少ないということは、アレが丸出しということ。下の写真のような、従来の形の小便器つまりサイドの張り出しが垂直になっているものは、目隠し効果がある訳です。

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スタイリッシュな便器の場合、周囲に見えないようにするためには、かなり便器に近づく必要があります。そう、なるべく便器に近づけさせる目的で、あえてアレをオープンにしているのではと勘ぐってしまいます。隠すためには、かなり近づいて用を足さなければなりません。これもナッジと言えそうです。

 

 

まとめ

以上ナッジについてまとめてきました。立ちション禁止の鳥居マークから始まって、最後にはトイレのナッジを紹介しました。なんだか汚い説明になってしまいましたね。ただ、もっとも身近なことなので、トイレを例にあげると分かりやすいです。

ナッジは官民をあげて取り組みが行われています。今後ビジネスの現場でも活用が広がっていくでしょう。ナッジの知識は、これからかなり役に立ちそうです。

 

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