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「ジョブ理論」の要約と感想。企業はどうすればイノベーションを起こせるのか?

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クレイトン・クリステンセン氏と言えば「イノベーションのジレンマ」が有名です。

大企業が破壊的イノベーションによって駆逐される様子を描き、世界的に有名な本となりました。今でも話題にのぼります。

では、破壊的イノベーションはどのように起こすのか。イノベーションのジレンマでは、破壊的イノベーションによっていとも簡単に大企業の商品が駆逐される様子が描かれましたが、イノベーションの起こし方までは言及されていませんでした。

その答えとなるのが「ジョブ理論」。ビジネスマンであるなら、誰もがこの本を手に取るべきであると感じました。

いったい「ジョブ理論」とは何なのか。「ジョブ理論ーイノベーションを予測可能にする消費のメカニズム(ハーパーコリンズ・ ジャパン) 」を読んでみましたので、要約と感想をまとめます。

 

この記事の内容

・ジョブ理論とは何か?ジョブ理論を簡単に説明。

・本の要約。ジョブ理論の概要、ジョブの発見(顧客のジョブを理解する)、ジョブに即したプロダクトを作る、ジョブに沿った組織づくり。大きく4つに分けて要約しています。

・本の感想。 - ビジネスマンはジョブ理論の知識を持っておくべき。

 

 

 

 

ジョブ理論ってなに?まずは、ジョブ理論の概要を。

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世界中の企業にとって、常にイノベーションは最優先課題であり、悩みの種です。イノベーションを起こすべく日々研究開発を行い、大量の新製品や新サービスが市場にリリースされています。ところが、そのほとんどがいつの間にか消えてしまうのです。1年後に残っている商品って、どれだけあるのでしょうか。

企業がイノベーションを起こせない理由は、顧客のことを分かっているつもりでも、実際には理解できていないから。

各企業においては、常に新たなマーケティングや分析の手法が取り入れられています。膨大な量のデータもどんどん蓄積されています。そうしたデータの分析によって、相関関係は分かります。F1層はこんなデザインが好み、郊外に住む30代男性はこんな行動をしがちなどなど。しかし、因果関係までは分かりません。「なぜ」顧客がその商品を購入するに至るのかが分からないのです。

その因果関係をもとにイノベーションを成功に導くのが「ジョブ理論」です。

顧客が商品を購入するのは、なぜなのか。それは、ジョブを片付けるため。何か片付けたいジョブがあるので、その商品を「雇用」するのです。

顧客はジョブを解決することで「進歩」します。顧客が進歩するのに苦労している点を理解し、その解決策と付随する体験を構築する。それが「ジョブ理論」です。

ジョブ理論に基づいたプロダクトは、他社との差別化と競争優位を可能にし、企業に大きな利益をもたらします。

 

 

「ジョブ理論-イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム」の要約

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まずミルクシェイクの話から。ミルクシェイクはなぜ購入されるのでしょうか。お客さんがミルクシェイクが好きだから?美味しいから?実はそんなことは関係ありません。

ミルクシェイクを買っていく人々を観察すると、朝9時前に車通勤の途中で購入されていることが分かりました。その理由を聞くと、こんな答えが返ってきました。退屈な車の運転中に手を汚さずに食べることができ、しかも昼食までの腹持ちが良い。バナナやベーグルなど、朝食でイメージするどの食べ物よりも、ミルクシェイクが通勤客の「片付けたいジョブ」をこなすのでした。

そこには年齢や性別などまっまく関係ありません。価格や量、味、固さなども関係ありません。ただただその商品が「ジョブ」をうまく片付けられるかが重要なのです。

人々がその商品を買うということは、なにかジョブ(用事、仕事)があり、それを片付けるためにその商品を「雇用」するのです。

ジョブには大小様々なものがあります。行列の待ち時間の暇つぶし、外でも気軽に音楽を楽しみたい、会計処理をより簡単に行いたい、、、。

このようなジョブを理解し解決することが、破壊的イノベーションの源になります。

ところが、企業はイノベーションを起こそうと日夜努力をして、新商品を続々と市場に投入していますが、往々にして顧客のジョブには焦点が当たっていません。顧客セグメントなどマーケティング的な要素を取り入れて商品開発をしていますが、大抵的外れであり、一か八かの賭けになっています。

そして、よく企業が取り入れているマーケティング分析、つまり人口統計学的な分析では、相関関係は分かっても因果関係までは解明できません。なぜ顧客が購入したのかまでは、分からないのです。的外れな製品をリリースしてしまう要因でもあります。

顧客の解決すべきジョブを理解して、それに即した商品やサービスを展開することで、イノベーションが成功する確率がぐっと高くなるという訳です。

ジョブに即した製品は、なかなか他社にはまねできません。ジョブ理論は、イノベーションを起こすためのツールであるだけでなく、他企業との差別化や競争優位を可能にするのです。

 

ジョブを発見する 

では、破壊的イノベーションに繋がる顧客の「ジョブ」は、どのように見つけ出せばよいのでしょうか。

アメリカのとある住宅会社は、小さな家への住み替え需要を狙って、小型で比較的安価な住宅を販売していました。

ところが、見物客は数多く訪れますが、なかなか売上に結びつきません。そこで、実際に住宅を購入した人に、なぜ購入したのかを尋ねたところ、意外なものがキーであることが分かりました。それがダイニングテーブルでした。家は住み替えても、家族とたくさんの時間を過ごしたダイニングテーブルには思い出が詰まっており、テーブルが置けるかどうかが重要だったのです。そこで、リビングにテーブルを設置できるスペースを確保して売り出したところ、これが見事にあたりました。値上げしても、他社より抜きんでて売上を伸ばすことができたのです。

ジョブをうまく発見できた例です。ジョブはあらゆる場所に眠っており、身近な生活にも潜んでいます。例えばウォークマンは、音楽を持ち歩きたいというジョブを片付け、新たな文化を作りました。その他にも意外な場所にジョブは存在し、ものの見方や見る方向を変えることにより、それらを見つけだすのです。

P&Gは中国の紙おむつ市場で、30%のシェアを獲得しています。しかし、販売当初はかなり苦労したようです。というのも、中国ではそもそも紙おむつを使用する習慣がなかったのです。何とか売上を伸ばそうと市場調査を実施しましたが、その結果は機能面ばかりにフォーカスのあたるものばかりでした。紙おむつが使われないのに、その機能を強化しても意味がありません。ジョブに目が向いてなかったのです。

おむつを使用すれば、赤ちゃんはぐっすり眠れます。オシッコで起きることがなくなります。それは、大人の時間も作ってくれることに繋がります。おむつにより夜の時間が解放されるのです。そんな社会的、感情的なジョブに訴える広告を打ったところ、先に紹介したように、大きなシェアを獲得するに至りました。

 

ジョブに即したプロダクトを作る 

顧客のジョブを理解したら、それをプロダクトに落とし込まなければなりません。そのためには、まずはレジュメ(概要書)を作ります。ここでも例を。

日本人にはあまり馴染みがありませんが、アメリカンガールドールは数ある人形のなかでも、アメリカの少女達の中で特別な地位を得ています。それには、他のどんな有名メーカーの人形も敵いません。

アメリカンガールドールは、少女達やその母親がその人形を通して得る特別な体験を求めているのであり、その特別な体験つまりジョブを提供するプロダクトを作るためのレジュメが精緻に練られていました。多少のコストがかかっても、包み紙までこだわります。そのレジュメに即した製品を作ることで、競合他社のまねできない長期の成功を収めることができました。

例えば、イケアの場合。イケアは、顧客を人口統計学的にセグメントしていません。「明日までに新居の家具を揃えたい」というジョブに即しています。イケアの家具は車で持って帰れるようにダンボールにコンパクトに梱包されていますし、シンプルな道具一つで組み立てられるようデザインされています。顧客はイケアがジョブをもっともうまく解決することを知っているし、製品やサービスも精緻にジョブに沿って展開されており、なかなか競合がまねできないのです。

そして、顧客のジョブにうまく合致したプロダクトは、パーパスブランドとして認識されるようになります。

ウーバー、ディズニー、エアービーアンドビー、スターバックス、そしてジャック・バウアー。名前を聞いただけで、片付けたいジョブを思い浮かべることができます。

ジョブを完璧にこなすことの対価は、ブランドの価値が高まることではありません。生活のなかに、それらのプロダクトが編み込まれるのです。そのジョブが発生するたびに、真っ先にこれらのブランドが心に浮かぶのです。そうなれば、他社を寄せ付けませんし、プレミアム価格を要求することも可能になります。

 

ジョブ中心の組織を組み立てる 

ただ、既存の企業組織では、そのようなプロダクトはなかなか生み出せません。片付けるべきジョブを中心に組織を作らなければならないのです。

企業は3〜4年に1回くらいのサイクルで、組織を大きく改編しようとします。何とか業績を向上させようという意図なのですが、ほとんどの場合でうまくいくことはありません。サラリーマンだと、誰もが経験しますよね。

ジョブ理論に照らし合わせると、そんな組織図の線引きはまったく無用になります。誰が誰の指揮下にあるかより、ジョブ解決のためのプロダクトを組織が体系的に提供できるかどうかが重要なのです。

そして、評価の尺度もジョブに則したものでなければなりません。アマゾンでは、顧客のジョブを解決するため、豊富な品揃え、低価格、迅速な配送の3つのポイントを重視しています。これら3つのポイントを、分単位で測定する仕組みが取り入れられています。組織よりもプロセスが重要なのです。

組織をジョブに則したものにするには、従業員ひとりひとりが顧客のジョブを理解しなければなりません。片付けるべきジョブを明確に定義し、全員がそれを認識した組織になることで、企業にとって4つの恩恵があります。

その恩恵とは、1.社員全員が自発的に意思決定できるようになる、2.資源の最適配分、3.社員の意欲向上、4.最適な評価基準です。

ジョブを見つけ出して、それを組織に組み入れることは大変な困難を伴いますが、時間がかかってもそれに値するメリットがあるのです。

 

感想

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すべてのビジネスマン、いや、なんらかの商売に関わる人であれば、一度は読んでおくべきであると感じました。自身の仕事に対して、新たな視座を得ることができます。

この理論の素晴らしさは、その適用範囲の広さ。企業だけでなく、個人の商店、さらにはフリーランスであっても有益です。だって本の冒頭に紹介される例が、ミルクシェイクのスタンドなんですから。

というのも、ジョブ理論って言われてみれば確かにそうだという単純なことなのです。顧客が商品を購入するのは、ジョブを解決したいから。

しかし、会社内でも顧客のジョブを理解した上で、商品やサービスをリリースしようという動きはあまり見られません。

営業部門なんて特にそうです。どの顧客から、どの商品が、どれくらい売り上がっているのか、それらの数字は追い求めますが、「なぜ」自社の商品を購入してくれるのかまで焦点があてられることはほとんどありません。

通販を展開する企業は、購買データを重要視します。購入者の年齢層や地域、購入した商品、金額などを日々こねくり回しています。その結果、アマゾンに大きく水をあけられました。本書内でも紹介されているように、アマゾンは顧客のジョブを中心に組織が構築されています。顧客のジョブを考慮せずに、数字だけいじっていても意味が無いのです。

日本の企業は生産性が低いし、イノベーションを生み出せなくなったと言われて久しいです。数字だけを追い求めて、結局それが良くない方に向かわしているのかもしれません。

顧客がどんなことに困っているのか。どんなジョブを解決したいのか。これって商売の基本であり、それに回帰すべきであると思いました。

 

ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム (ビジネスリーダー1万人が選ぶベストビジネス書トップポイント大賞第2位! ハーパーコリンズ・ノンフィクション)

 

実践「ジョブ理論」 ハーバード・ビジネス・スクール クリステンセン教授 最新マーケティング理論