住のもの (すのもの)

地方都市でマイホームを購入し、家族の幸せを追い求めるブログ

JTBが中小企業になるってどういうこと?減資の目的とは?今後旅行業界はどうなる?

f:id:mister19:20210225220342p:plain

JTBが中小企業に!?

どうも旅行業界最大手のJTBが中小企業になるようです。売上規模が1兆円を超えるJTB。どう見ても大企業です。

確かにコロナ禍により、旅行需要が大きく落ち込み、JTBだけではなくどの旅行会社も大変な状況。今後も旅行需要が回復しないと考えて、会社の規模をこじんまりさせるということ?グループ全体で27,000名を超える従業員を、大きく削減するということ?

いえいえ、そうではありません。資本金の額を減らすのです。現在は23億400万円の資本金。会社の規模を資本金で見ることもありますよね。その資本金を1億円まで減資させるというのです。あくまでも帳簿上で中小企業となります。

それはいったいどういうことなのでしょうか。どういった目的があるのでしょうか。そして、旅行業界は今後どうなるのでしょうか。考えてみたいと思います。

 

この記事の内容

・資本金1億円以下の大企業は結構ある。

・資本金を1億円に減資する目的は、税制面のメリットが大きいから。

・大手旅行会社はWEBの取り組みが遅れたが、事務局の受託業務にノウハウを持つ。

 

 

 

 

減資で資本金1億円に。その目的とは?

JTBが資本金を1億円に減資。

営業の仕事をしていると、取引先の資本金を確認することがあります。例えば、新規に取引を開始する時など。取引先登録の申請書類には、資本金の記入欄が設けられています。

資本金は、会社の規模つまり信用力を表す指標として使われています。大企業になるほど、当然資本金額が大きくなります。

というのが一般的な見方。実際はそうとも言い切れないようです。

実は、資本金1億円以下の大企業はたくさんあります。例えば、ヨドバシカメラ。従業員5,000名で売上高7,000億円の押しも押されもせぬ大企業です。しかし、資本金は3,000万円しかありません。

アイリスオーヤマは単体で2,000億円以上の売上のある大企業ですが、資本金は1億円です。

直近で減資した事例としては、スカイマークがあげられます。現状90億円の資本金を、1億円に減資すると報道されました。

かつて減資をしようとして批判を浴びた例もあります。シャープは1,200億円あった資本金を1億円に減資しようとしましたが、世間からの批判により断念しました。下でも書きますが、減資には節税の目的があります。大企業の社会的責任として、節税目的で名目上中小企業になるのはいかがなものかとなったわけです。

 

そもそも資本金とは?

そもそも資本金ってなんなのでしょうか。言葉だけは知っていますが、どういったものかあまり良く知らないですよね。

資本金とは、株主から出資されたお金のことです。株式会社は株式を販売することによって、出資者から資金を得ます。銀行から借りるのと違って、返す必要のないお金です。会社の運転資金や設備投資、研究開発等なんにでも使えます。

そして特に実態があるわけでもなく、あくまでも帳簿上記載しているお金です。「資本金」というと大事に取っておくようなイメージがありますが、もともとは運転資金のために株主から調達したお金。使い切っても問題はないのです。

日本の税制では、この特に実態のない資本金によって税率が異なります。つまり資本金が1億円を超えると大企業、1億円以下で中小企業の見なされます。中小企業を育成する目的で、1億円以下の中小企業は税制面で有利になります。大企業だと、例え赤字であっても税金が課されてしまいます。

資本金はあくまでも名目的なものであり、1億円への減資は税制面の穴をついた節税であると言えます。倫理的な話は置いておいて、法的には全く問題の無い取り組みなのです。

 

資本金を1億円にする目的は節税のため

上でも触れましたが、大企業が帳簿上中小企業となるのは節税が目的です。では、どのような節税のメリットがあるのでしょうか。

 

外形標準課税が適用されなくなる

税金の一般的なイメージは、得られた所得つまり企業であれば利益への課税です。赤字で利益が出ていないのであれば、税金の徴収は無さそうです。

ところが大企業はそうではありません。赤字であっても税が課せられます。

法人を対象とする税には、国税である法人税と、地方税の法人事業税があります。いずれも基本的には所得に課される税です。

問題なのは、法人事業税。法人事業税には、「外形標準課税」という制度が盛り込まれています。

外形標準課税とは、言ってみれば企業の規模にかかる税。企業規模が大きくなれば、より税額が大きくなります。「外形」つまり外から判断可能な対象に税を課すのです。

具体的には、法人事業税は「所得割」「付加価値割」「資本割」の3つに分かれます。所得割は、その名の通り所得への課税です。外形標準課税と言われるのは、「付加価値割」と「資本割」です。

「付加価値割」は、給与報酬額、支払った利子、支払ったオフィスなどの賃料に、単年度の損益額を足した額をベースとして課税されます。会社の規模が大きくなれば、人員が増えて全体の給与額が増えます。オフィス面積も必要ですから、賃料も必然的に大きくなります。大きい企業ほど、たくさんの税が発生するのです。

「資本割」は、資本金に課されます。なので、資本金が少ない方が負担も少なくなります。

これらの外形標準課税は、資本金が1億円を超えると対象となります。ちょうど1億円だと、対象外。1億円以下に減資をしておけば、赤字でも支払わなければならない外形標準課税が適用されなくなります。

ただ、外形標準課税が導入された目的には、例え赤字であってもその自治体にある限り何かしらメリットを受けているだろうから、大企業であれば相応の還元をすべしという考えがあります。なので、こんなセコい手を使うのはいかがなものか、といった意見もあります。

 

欠損金が全額繰り越しできる

欠損金とは赤字のこと。資本金1億円以下の中小企業であれば、10年間に渡って過去の欠損金を所得から控除することが可能です。法人税の負担を減らすことができるのです。

大企業でも繰り越しは可能ですが、欠損金の50%までという制限があります。中小企業であれば、全額繰り越すことが認められます。

その年に大きな赤字を出した場合、翌年以降の黒字は前年の赤字額と相殺されます。もちろん利益自体が無くなる訳ではなく、あくまでも課税対象となる金額が減るということです。

前年に100億の赤字が出て、翌年に100億の黒字が出たとします。赤字である前年は当然法人税はかかりません。そして、黒字である翌年も前年度分の赤字100億円が控除され、税金がかからない計算となります。

JTBはコロナ禍で大きな赤字を出してしまいました。2020年度は通期で1,000億円もの赤字になる予想です。この赤字が全額繰り越せるなら、来年以降旅行需要が回復して黒字化すると、かなり税負担を減らすことができます。

 

 

今後旅行業界はどうなる?

以上JTBが資本金を1億円に減らして、税法上中小企業となる目的を推察してきました。

このような取り組みを行うのは、そもそもが業績が大きく落ち込んだため。旅行需要が大きく減少しました。国内旅行はGo Toトラベルキャンペーンなどで多少は補えたかもしれませんが、稼ぎ頭である海外旅行がほぼゼロの状態。また、会社などの研修旅行や団体旅行もほとんど無くなりました。

また旅行会社はイベントの開催も得意です。今年は各種イベントが中止となったり、特にオリンピックが延期になった影響も大きいでしょう。

今後旅行業界はどうなるのでしょうか。考えてみます。

 

 

旅行需要は不変。しかしWEB化に遅れが。

旅行に行きたい!温泉に行きたい!ディズニーランドに行きたい!

今はコロナ禍により、旅行を控えている人が多いでしょう。ただ、人が旅行をしたいという欲求は変わらないはず。

仕事のあり方は、コロナ後は大きな変革を迎えそうです。テレワークがメインとなり、通勤が減りそうです。そもそもオフィスが縮小され、家の近所のシェアオフィスで仕事をするようになるかもしれません。仕事だけでなく、様々なシーンにおいても変化の波が訪れるでしょう。

では、旅行は?家にいながら、オンラインで旅行する?

そうはならないと思います。やはり旅行は現地に行ってなんぼ。温泉の動画を見ながら家のお風呂に入ってもしょうがないですよね。AIが人の仕事を奪っても、旅行の楽しさは奪えません。

今は皆が旅行を我慢しているのであり、落ち着いた際には需要が爆発するはず。旅行会社も今の苦しい時期を乗り越えれば、明るい未来が待っているのでは。

ただ、一つ問題が。JTBを始めとする大手旅行会社は、WEBが弱いのです。全国に張り巡らされた店舗網により、対面での販売は圧倒的な強みがあります。どこのショッピングモールにも必ず、JTB、日本旅行、近畿日本ツーリストといった旅行会社の店舗が入居しています。

しかし、WEBは大変。楽天トラベルやじゃらんなど予約サイトが強いです。OTAと呼ばれます。大手旅行会社は、そうしたOTAの後塵を拝しているのが実情。最近は、宿はネットで手配するのがスタンダードです。

もっと早くWEBに力を入れておくべきだったのでしょう。広い店舗網により、ネットへの対応が遅れてしまっのかもしれません。まさに、イノベーションのジレンマと言えます。

ただ、大手旅行会社も年々WEB経由の取り扱い額を増やしており、頑張って欲しいところです。

 

事務の請負が増えるのでは?

持続化給付金の事務作業を受託したのが電通でした。「癒着だ!」と騒がれたのは記憶に新しいところです。

このような事務作業の一括受託業務は、旅行会社も得意としています。旅行会社には、スポーツ系イベントの事務局業務を数多くこなしてきた実績があります。

事務局にはたくさんの仕事があります。会場や人の手配はもちろんのこと、チケット等の発送業務や問い合わせ対応、管理用のシステム構築など、業務は多岐に渡ります。しかも大量にかつ長期に渡って処理しなければなりません。

当然一つの会社ですべてを処理するのは不可能ですから、印刷会社やコールセンターの会社に再委託をします。

つまり、広告会社や旅行会社は、ディレクター的な役割として大規模イベントを采配するノウハウをもっているのです。

こうしたノウハウを活かして、自治体業務の受託が盛んに行われています。

例えば、今回のコロナワクチン接種業務。国がすべてを取り仕切っているように見えますが、実務は地元の市町村に任されています。このような業務には、会場の手配や券の送付、問い合わせ対応や入力作業など、様々な事務作業が発生します。自治体職員だけで遂行するのは不可能で、作業はアウトソーシングされます。実際に、○○市は日本旅行、△△市はJTBといったように、旅行会社が受託しているケースが結構あります。

こうした業務をこなすノウハウは旅行会社の強みであり、これからも売上が伸びていくでしょう。ただ、給付金の受付業務といったものは定期的にあるものではなく、どうしてもスポット的な仕事になってしまいます。今年は仕事があったが、来年は無いなんてことも。

やはり、旅行の売り上げが戻らないと、どうしようもなさそうです。

 

 

まとめ

JTBが話題になったと思ったら、LINEが減資をするというニュースも飛び込んできました。

資本金って実態のない帳簿上の数字でしかありませんから、それを減らすことでメリットがあるなら、今後この動きは増えていきそうです。

企業の社会的責任を考慮すると、あまりよくないことではあります。社会への還元を減らす訳ですから。

しかし、法律上は全く問題ない行動ですし、利益を最大化すべき企業としては合理的な行動です。

そもそも実態のない資本金をベースにしているのが良くないですよね。

とにかく旅行会社は苦しい状況です。近い将来、あれは何だったんだという感じで皆が旅行する状況が戻ってくるはず。何とかこの苦境を乗り越えて欲しいものです。