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そもそも転勤って法的に問題ないの?過去の判例を調べてみました。

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高度成長期の日本。各社とも人材は不足し、社内で従業員を異動させることで調整を図ってきました。その代わりとして、従業員には年功序列や終身雇用といった特典が与えられたのでした。

時は変わって現在、高度成長期なんて何十年も前に過ぎ去った過去のことですし、日本経済はずっと低成長に喘いでいます。

年功序列や終身雇用は終焉を迎えつつあります。経団連も維持できないと公言しています。それなら、転勤も無くしていく方向性でないと矛盾が生じますが、年功序列や終身雇用と比較すると変化のスピードは遅いように感じます。

個々人の働き方も大きく変わろうとしています。仕事に対する考え方も大きく変わってきました。

昭和の遺物とでも言うべき転勤は、すでに時代遅れなのです。

自分自身、転勤は3度経験しました。従業員にとって、転勤には良い面もあれば、悪い面もあります。独身であれば転勤がもたらすデメリットも小さく、逆に良い面もあったりするのですが、一旦家族を持つと人権侵害と言えるほどデメリットが大きくなります。

そもそも従業員の生活に不利益をもたらしかねない転勤って、認められるのでしょうか。居住地を自分の意思に反して強制的に決められる訳ですし、家族がいれば単身赴任なんて一家離散と同じです。

法的に問題ないのかどうか、転勤に関係する過去の判例を調べてみました。

 

 

 

 

法的に転勤はOK、ただし濫用はできない

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転勤って違法ではないのか?日本国憲法第22条には、居住移転の自由が定められており、自分が住みたいところに住む権利が保障されています。

ところが、転勤は自らの意思ではなく、会社によって居住地を決められてしまいます。望まない転勤であれば、それこそ強制的に移住させられてしまうのです。単身赴任であれば、一家離散です。人権侵害とまで言える可能性もあります。

しかし、法的に転勤は問題無しとされています。大抵の場合、転勤は合法ですし問題無いのです。ただし、社員の事情は考慮しなければなりません。まずは、代表的な2件の判例をご紹介します。

 

 

転勤は法的に違法ではなく認められるー「東亜ペイント事件」

法的に転勤はOKなのです。希望もしていないのに居住地を勝手に変えられてしまうって、社員にとって大きな不利益ですし、労働契約の範疇を超えるような不当な命令に思えます。

ところが、過去の判例によって、転勤は問題無いという判断が下されており、企業がバンバン転勤を命令できる根拠となっています。それが東亜ペイント事件です。

ちなみに、「事件」とありますが、犯罪とかそんな意味ではなく、法令用語として事柄や案件という意味です。

 

東亜ペイント事件

神戸営業所に勤務する営業担当者が、広島への転勤を拒否し、その後名古屋への転勤も拒否したことから懲戒解雇を受けました。その営業マンは転勤と解雇は無効であると提訴して、最高裁まで争われました。

 

判決の内容

入社時に勤務地を限定する合意も無く、就業規則に転勤を命令できることが明記されている。そして、実際に社内で頻繁に転勤が実施されている背景もあり、従業員の同意無しに転勤を命令することは問題なしとされました。

ただ、業務上の必要性が無い、不当な動機・目的でなされた、従業員に通常受け入れられる程度を超える不利益をもたらす、といった場合は権利の濫用にあたるとして認められません。

 

ポイント

入社時に勤務地を限定する約束が無く、就業規則や労働協約に転勤させられる旨が記載されており、業務上必要である、不当な動機や目的ではない、従業員に通常甘受される程度を著しく超える不利益がもたらされるものでなければ、転勤はOKになるという基本的な考え方が示されました。

この業務上の必要性というのがポイントです。業務上の必要性とは、その人でなければならないという高度な必要性でなくても、企業の合理的運用に寄与すればOKということなのです。つまり転勤は裏にどんな理由があれ、表面上は業務に必要と言う形で命令されますので、大抵の転勤は問題無いものとなってしまうのです。

 

 

社員の事情は考慮しなければならないー「ネスレ日本事件」

何でもかんでも認められる訳ではありません。上で書いたように、業務上の必要性が無い場合、不当な動機・目的でなされた場合、従業員に通常受け入れられる程度を超える不利益をもたらす場合は認められません。

通常受け入れられる程度の不利益を超えたことが認められた判例があります。

 

ネスレ日本事件

工場の再編により兵庫の姫路から茨城県へと転勤命令がなされましたが、その配置転換は無効であると争った結果、その社員が母親の介護中という背景もあり、権利の濫用として認められました。

 

判決の内容

企業の合理的な運用のための転勤は、基本的に認められる。

ただこの場合、対象の従業員は家族を介護している状況であり、育児介護休業法26条ではそうした従業員に対して配慮することが求められています。従業員に要介護の家族がいることが分かっても、事情をしっかりと聞くことなく転勤命令を維持したので、配慮が足りないと判断されました。転勤により受ける不利益が非常に大きなものであったことから、通常受け入れられる程度の不利益を著しく超えるものであり、権利の濫用であると認められました。

 

ポイント

この場合は家族の介護でしたが、従業員の生活の状況を、転勤を命じる企業は真摯に考慮しなければならないということです。

現在、子育て世帯の大半が夫婦共働きですが、そうした状況はあまり考慮されていない現状があります。ある一定年齢以下の子供を育てる親の転勤も、大きな不利益として認められられべきであると思いました。

 

 

 

転勤に関するその他の判例も調べてみました。

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上記2点は、転勤に関する代表的な判例です。もちろんその他にも転勤に関する裁判が起こされています。上記以外の転勤に関係する判例を調べてみました。

こうした裁判は、転勤を命じられた従業員側から起こされます。従業員側の主張が認められた事例もありますし、退けられたものもあります。それぞれ紹介します。

 

転勤命令が問題無しと認められた判例

まず原告である従業員側の主張が退けられたもの、つまり転勤OKと認められた判例を2件紹介します。ケンウッド事件では、子育て中で毎日保育園に送り迎えする女性社員の転勤が認められました。今だと社会通念上NGになるのでは、なんて考えたりします。

 

「帝国臓器製薬事件」:業務上必要であれば、単身赴任は問題無し
帝国臓器製薬事件

東京から名古屋への転勤を命じられた営業マンが、夫婦共働きの妻と三人の子供と別居しなければならない単身赴任を強いられたとして、転勤の違法性を主張し損害賠償を請求しました。

業務上必要であるし、社会通念上甘受すべき程度を超えるものではなく、転勤に違法性はないと判断されました。

 

「ケンウッド事件」:子育ては理由にならない
ケンウッド事件

東京の事務所から八王子への転勤命令を受けた女性社員は、子供の保育園への送迎に支障が出ることから、転勤命令に従わず八王子の事業所への出社を拒否しました。その結果、1か月の停職、停職期間満了後は懲戒解雇となりました。女性社員は、転勤命令は権利の濫用であり、懲戒解雇は無効であるとして訴えを起こしました。

最高裁まで争われた結果、当転勤は業務上必要なものであり、従業員が受ける不利益は小さくはないが、通常甘受すべき程度を超えるとまでは言えないと判断されました。

 

 

転勤が問題ありと認められた判例

次に転勤が不当であると認められたケースを紹介します。 嫌がらせや介護など、特殊なケースが問題と認められるようです。

 

「NTT西日本(大阪・名古屋配転)事件」:リストラ目的の配転はダメ
NTT西日本(大阪・名古屋配転)事件

退職やリストラに応じなかった51歳以上の従業員に対し、大阪から名古屋へ配転させ、長時間の新幹線通勤や単身赴任を強いることは不当であるとして、慰謝料の支払いを求めて争われました。

判決では、そのような負担を強いてまで配転させる業務上の必要性は認められないとし、会社側に慰謝料の支払いが命じられました。

  

「新日本通信事件」:採用時に勤務地を限定すれば転勤は無効
新日本通信事件

採用面接時に家庭の事情により転勤はできない旨を説明した上で仙台で採用された社員が、大阪本社への転勤を命じられました。一旦大阪には赴任したが、後に勤務成績不良を理由に解雇されてしまいました。仙台から大阪への転勤命令と、解雇の無効を訴えて争われました。

当従業員は採用面接時に、仙台から転勤できないことをはっきりと述べており、逆に会社側からは転勤があり得ることを明示していないことから、雇用契約上勤務地を仙台に限定されていると認められました。この勤務地限定の合意に反することから、転勤命令は無効であるとされました。また解雇についても、解雇権の濫用であるとして無効となりました。

 

「フジシール事件」:嫌がらせ目的の配置転換はダメ
フジシール事件

退職勧奨に応じなかった開発職種の管理職の従業員に対して、現場で肉体労働を行なう筑波工場への配置転換が命じられました。この命令に対して、裁判所に仮処分の申し立てをしたところ、仮処分の決定が下されましたが、それを受けて今度は奈良工場への配置転換が命じられました。

筑波工場ではインキ担当とされ、インキ缶はかなりの重量であることから相当な肉体労働でした。肉体労働の経験の無い開発の管理職が当業務に従事するのは、業務上の必要性はなく権利の濫用であるとされました。

次の奈良工場においては、以前は嘱託の社員が従事していたゴミ回収の作業が課されましたが、これも当従業員を配転させる必要性はなく、権利の濫用であるとされました。

これらは、嫌がらせ目的の配置転換であり、そのような目的であれば権利の濫用であり無効と認定されたのでした。

 

「明治図書出版事件」:条件によっては育児も配慮の対象となる
明治図書出版事件

東京本社に勤務していた従業員に対して、大阪支社の増員のため転勤が命じられました。ただ、その社員は共働きの妻がおり、2人の子供が皮膚の治療のため都内の治療院に通っていました。そのため転勤は辞退したい旨を申し出ましたが、会社からは問答無用で転勤命令が出されました。当従業員は、この命令は無効であるとして仮処分を申し立てました。

育児介護休業法の26条では、就業場所の変更によって子供の養育や家族の介護に支障をきたす場合、その状況に配慮しなければならないと定められています。従業員が配置転換を拒む態度を示している時には、その事情に対して真摯に対応することを求めており、今回のケースは一方的に転勤を押し付ける態度であり、真摯に対応するものでないことから、育児介護休業法26条に反するとして権利の濫用が認められました。

 

 

まとめ

以上転勤に関する判例を調べてみました。こうした判例の積み重ねが、今の転勤制度の根拠となっているのでした。

家族の介護であったり、明らかに嫌がらせ目的でなされたものでなければ、通常の形で入社している限り、転勤は甘んじて受け入れるしか無さそうです。転勤が認められないケースは、それこそ特殊ケースであると言えそうです。

ただ、冒頭でも書いたように、転勤は終身雇用とセットとなる制度です。終身雇用が崩れつつある昨今、転勤を続けることは従業員が被る不利益が大きくなるということです。終身雇用が無くなったのに、転勤は続いているって不公平ですよね。

会社の運営上、転勤をまったく廃止してしまうことは不可能でしょう。多少の転勤はやむを得ないと思います。その場合でも、基本的には希望を優先するべきです。欠員が出て補充が必要であれば、まずは社内で募集を行うべきであると思います。

家族を持つと、転勤の痛みがよく分かるようになります。最近はほとんど共働き家庭なのに、そんな社会的背景を無視した転勤って、やっぱりおかしいですよね。

 

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