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21年4月から総額表示に。消費税に関連したナッジを考える。

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「どうして今まで総額表示じゃなかったのか」

21年4月1日から、商品の価格を消費税込みで表示することが義務付けられます。ユニクロが消費税分を値下げしたこともニュースになりました。

そもそもこれまでどうして税込価格ではなかったのか。どうせレジで支払う金額は同じなのですから、値札も税込にしてくれた方が購入する側としては分かりやすいですよね。

そこには、決して合理的でない人々の行動が関わっているようです。行動経済学的なテクニックつまりナッジが入っているのです。

消費税に関連したナッジについて考えてみたいと思います。

 

 

 

 

21年4月1日から消費税の総額表示が義務付けられる

例えばレストラン。メニューの価格は880円なのに、レジでは1,000円近い金額に。思ったより高い料金を支払うことに。「結構かかったなー」なんて思いながら店を後にします。メニューの価格には消費税が含まれていなかったのです。

これまでは、特例措置として税別であることが分かるようになっていれば(誤認防止措置)、税別の価格表示をすることが認められていました。つまり「(税別)」などと併記すればOKでした。

この税別表示の特例が、2021年3月31に終了します。それにより、チラシやパンフレット、WEBサイト等で価格表示をする場合は、消費税込みの金額(総額表示)を明記しなければならなくなります。

我々消費者からすると、あらかじめ税込で価格を表示してもらえた方が、分かりやすくてありがたいですよね。

ユニクロは一足早く3月12日から総額表示に切り替えました。これまでは税別表示でしたが、価格はそのままに税込金額としました。つまり、消費税分が値下げとなります。

全身ユニクロか無印という方も多いと思います。自分も含めて。値下げは嬉しい限り。

この税別表示の特例は、2013年から開始されました。消費税が5%から8%に上がるタイミングですね。当初は2018年までの予定でしたが、10%への増税に合わせて2021年まで延長されました。

そもそもこの特例が導入された目的は、消費増税の際にお店の値札貼り替えの事務作業を軽減するため。

ただ、行動経済学的に考えると、事務作業の軽減だけでない別の目的が見えてきます。小さな商店ならともかく、大企業なら値札の表示価格もしょっちゅう変わるでしょうから、事務負担の理由で長い間総額表示にしないのはなんだか納得できません。

明らかに「ナッジ」が目的でしょう。

 

 

ナッジとは?

そもそもナッジとは?「ナッジ」の意味とは、ひじでちょんとつくこと。ひじでほらっとするように、人の行動を変化させることが目的です。

明らかなインセンティブを与えたり強制するのではなく、あくまでも自分の意思で行動します。心理的な要素を用いて、その意思決定に影響を与えるのです。

ナッジとは行動経済学の概念の一つ。ビジネスの現場だけでなく、政府や自治体の政策実現の目的としてもナッジは活用されています。

ナッジについて、詳しくはこちらの記事もどうぞ。

www.sunomono19.com

 

 

消費税に関連するナッジを考える

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企業にメリットがあるからこそ、ずっと税別表示が続けられてきました。そこにどのようなナッジがあり、それによりどのようなメリットを生んでいたのでしょうか。

また、税別表示以外にも、消費税に関しては行動経済学的に考えられそうな要素があります。例えば、軽減税率。低所得層を救済する目的で導入されましたが、軽減税率は決して合理的とは言えないのです。

 

 

税抜き表示で安く感じる

どなたも実感しているところだと思います。税抜きだと安く見えるので、ついつい買ってしまいますよね。レジで思ったより高く感じても後の祭りです。

アメリカのスーパーで行われた実験では、一部の商品にだけ税込価格を付け加えた値札を表示したところ、税込価格の方が平均8%売り上げが減少したそうです。

実質的にはレジで支払う金額は同じなのに、税抜き表示の方が売れ行きがいいのです。

また、ユニクロのような生活に根差したお店だと、リピーターも結構な割合存在するでしょう。我が家もユニクロは近所のショッピングモールに入っていることもあり、しょっちゅう訪れています。

そこで税抜き表示が総額表示になったらどう感じるでしょうか。実質的にはレジて払う金額はこれまでと同じ。しかし、消費者は値上げされたと感じてしまうでしょう。

消費者はこれまでの価格をもとに購入を検討します。人は最初に見せられた数字により、その後の意思決定も左右されます。これをアンカリング効果といいます。

テレビ通販では、最初に高い金額を言っておいてから、「特別値引き」とかなんとか言って実際の販売価格を伝えます。視聴者は「安くなった!」と感じてしまいます。まさにアンカリング効果です。

 

また、人は利得より損失の方が大きく感じてしまいます。お金をもらうより失うことの方が、だいたい2.25倍も大きく感じるようです。これをプロスペクト理論と言います。

ユニクロの場合は、「990円」や「1,990円」など、分かりやすい価格がつけられています。多くの人が価格を覚えている可能性があります。

ここで税込価格に変更してしまうと、「値上げされた」と感じてしまう人が少なからずいることでしょう。

人は値下げより値上げに反応してしまうものです。値上げは損失と感じられるから。実際には同じ値段なのに、値上げと感じられると企業にとっては大変なマイナス影響があるかもしれません。

今回消費税分を値下げして、表示価格を変えないようにしたのは、値上げと受け取られて顧客が離れてしまうのを防ぐことが目的だったのではと考えることができます。

最初から総額表示にしておけば、必要のなかった値下げだったかもしれませんね。

 

便乗値上げ

消費増税のタイミングでは、便乗値上げが心配されました。政府も便乗値上げはNGですよとアナウンスしていました。

つまりはこういうこと。これまで95円の商品を税込100円で販売していたとします。消費税は5%でした。8%へ増税のタイミングで、100円(税別)と値札を変えたら便乗値上げですね。上がったのはあくまでも消費税だけであり、95円(税別)と表記すべきなのです。

とはいっても、仕入れ値にかかる消費税も上がるのであり、一概に便乗値上げとは言い切れないのが難しいところです。

 

21年4月からは、値札が税別から税込価格に変更されます。税率の変わらないこのタイミングで、知らぬ間に価格が上がってしまうことも。

例えば、これまで税別100円としていた商品。消費税は10%なのでレジでは当然110円を支払うことになります。

しかし、消費者はもとの値段なんて覚えていません。総額表示後に120円と値札をつけても、値上げだと気付く消費者は少ないのではないでしょうか。

今回は税率は変わらないので、仕入れ値も変わらないはず。価格が上がったら便乗の可能性がありますね。

企業としてはこっそり値上げをするチャンスなのです。

 

自動車やマンションの税込価格

自動車や新築マンションは、税込価格で提示されます。

そうするように決められているから、という理由がありますが、金額が大きいだけに始めから総額表示の方が良さそうなのです。

お店では税別だと安く見えるので、ホイホイと買い物カートに投入してしまいますが、車や家といった大きな買い物はそうはいきません。

最初に税別価格を見せると、その価格でアンカリングが生じます。

その後に税込価格を提示すると、消費税分高くなったと感じてしまいます。つまり損失と感じます。車や家などの高額商品だと、消費税額もかなり大きくなりますしね。

人は利得より損失の方を大きく捉えるというプロスペクト理論。税込価格を損失と捉えられたら大変です。もしかすると購入を諦める人が出るかもしれません。

最初から税込価格を見せれば、その価格がアンカーとして機能します。結局は同じ金額であっても、税込の方が成約の確度が高くなりそうですね。

 

軽減税率

今回の10%への増税では、食料品などに軽減税率が導入されました。

この軽減税率の目的は、税負担の緩和のため。主に低所得層を助けるためという触れ込みでした。

しかし、この軽減税率。実は低所得層を助ける以上に、高所得層を助けてしまうのです。

昔からエンゲル係数といって、収入が低いほど支出の中で食費への割合が高くなると言われてきました。だからこそ生活必需品の税率を下げる軽減税率は有効なように思えます。

ただ、たとえエンゲル係数が低くても、食料品の購入額は高所得層の方が大きくなります。より高価なお肉を買うかもしれませんし、財布の中身を気にせずに商品を手に取っていくでしょう。

つまり、軽減税率の恩恵は高所得層の方が大きくなるのです。

低所得層の負担を減らすのが目的なら、給付金など別の方法の方が良さそうです。これまで低所得層向けに何度か「臨時福祉給付金」が支給されましたし、定額給付金は記憶に新しいところ。

「低所得層を助ける」というお題目を隠れ蓑に、選挙への影響を防ぐのが目的だったのかも知れません。

そういえば、新聞にも軽減税率が導入されました。新聞を定期購読するのは、高所得層がメイン。これもお金持ちが有利です。

活字文化がどうの言っていましたが、本当のところは?

 

所得税か消費税か

過去の消費税の導入は、確実に景気の悪化を招いてきました。

消費税は消費すると、余分にお金を取られてしまいます。要するに、消費に対するペナルティみたいなもの。そりゃ景気が悪くなります。

ところが、経団連は消費増税に賛成を表明していました。よく考えたらおかしな話です。景気が悪化したら、企業の収益も悪化するはず。

そこには法人税という弱みを握られているという理由があるのでしょう。恐らくそれがもっとも大きな理由です。

ここで他の理由も考えてみます。行動経済学的に考えてみましょう。

同じ税を負担するにしても、消費税と所得税で人々の勤労意欲が変化するかを検証した研究があります。

それによると、消費税より所得税の方が勤労意欲の低下に影響したそうです。その理由はこのように考えられています。

所得税が課されると、手取り賃金が減少します。つまり目に見えて労働の対価が減るのです。対価が減るので、やる気をなくしてしまいます。それに対して消費税は、実際に消費する段階になって初めて課されます。

トータルで徴収される税額が変わらないとしても、所得税は手取りが明らかに減るので意欲減退を招くのです。

雇用する側としては、所得税をあげられるよりは、消費税を上げてもらった方が、社員のモチベーションを維持することができるので、その方が好ましいのかもしれません。

 

 

 

まとめ

4月から商品の価格は、総額表示つまり消費税込みの価格で表示しなければならなくなりました。我々消費者からすると、ありがたいですよね。

そもそも原則的には税込価格を表示しなければなりませんでしたが、特例措置として税別価格が許されてきたのでした。

特例措置が導入された目的は、事務負担の軽減のため。しかし、どちらかというと価格を安く見せるという錯覚を利用して、より多くの商品を買わせようという狙いがあったはず。

レストランなんかでメニューの価格が「税別」と記載されていると、なんだか残念な気持ちがします。頭で消費税込みの金額を計算しながら注文しなければならず、少しわずらわしいですよね。これからはそんな計算から解放されます。

とにかく総額表示はありがたいですね。まあ、消費税はありがたくないですけど。

 

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