インバウンド需要が大きく落ち込んでいます。訪日外国人はほぼ0の状態です。しかも東京五輪が延期となり、海外からのお客さんのお金はまったくあてにできない状況となってしまいました。観光や交通関連の産業にとっては死活問題でしょう。
旅行や出張などで人が動けば、それだけお金を落としていってくれますので、経済効果が見込めます。今は大々的には難しい状況ではありますが、国内での人の移動を活発化させ裾野の広い観光産業にお金を回してもらうよう、経済対策の一環として高速道路の無料化が検討に上がったようです。
高速代って結構馬鹿にならないので、遊びに行くことへの障壁となってしまっている面があります。どこかに行きたいなと思っても、高速代のことを考えると躊躇してしまいます。かと言って公共交通機関を使って家族で移動するとなると、さらにお金かかるんです。実は移動って結構お金がかかるんですね。現在広島在住で実家は大阪にあるのですが、なかなか帰省も頻繁にはできません。孫の顔を見せる機会も限られてしまいます。
リーマン・ショックの頃、ちょうど麻生さんが総理大臣の時でしたが、経済対策として高速代1,000円が導入されたことがあります。自分自身高速代1,000円の恩恵を結構受けることができましたので、個人的にはいい印象を持っています。実は今回の経済危機に対しても同様の政策を行なうべきだと内心思っていたところ、ちょうどこの報道を目にしました。1,000円でどこまでも行けますので、それならどこかへ行こうという気持ちに大いになりましたし、実際に各地を車でうろうろしました。その反面、渋滞が発生したり、並行するフェリーなどの利用が減少するなど負の側面があったことも事実です。
この記事では高速1,000円について振り返ってみたいと思います。
高速1,000円ってどんな政策だった?
2009年3月28日から2011年6月19日まで実施されました。東日本大震災が発生し、その復興費用の財源確保から廃止に至りました。首都圏や近畿圏の大都市部以外の区間において、土日祝日の高速代が上限1,000円とされました。レジャーを促進し、観光関連産業の活性化を通して、経済を刺激することが目的です。お盆や年末年始の期間は平日であっても1,000円が適用されました。
具体的な路線は、NEXCOが管理する地方の路線と、本四高速つまり明石海峡大橋や瀬戸大橋、しまなみ海道が対象とされました。
平日は適用外とされましたが、例えば金曜日から土曜日にかけて平日と休日をまたいで高速道路を利用した場合は、1,000円が適用されました。
また、現金での支払いは適用外で、ETC搭載車のみが対象でした。
それ以前に、ETC搭載車が深夜に時間帯に料金所を通過することで、50%の割引が導入されていました。適用時間の少し前になると、料金所のまえに時間待ちの車両が列をなす光景が見られました。30%の割引となっていますが、現在も休日や夜間のETC割引は存在していますね。
効果は?
観光産業は経済波及効果が大きいとされています。例えば温泉旅行に行ったとします。目的地に行くまでの交通費や旅館の宿泊費としてもちろんお金を支払います。旅館の下には、食材を卸す業者や、シーツなどのリネン業者がいます。食品を卸す会社の下には、食品加工会社や農家や漁師がいますね。また、旅行に行くとお昼においしいものを食べたくなりますから、食べログなどで地元のおいしいお店を検索して食べに行きます。観光地では、施設の入場料、お土産物屋、カフェなどでお金を落としていくでしょう。このように旅行に行くと、なんやかんやお金を使ってしまいます。観光産業は結構裾野が広い産業であると言えるでしょう。
国土交通省のアンケート調査によると、平成20年と21年を比較して、日帰り旅行は1.3倍、宿泊旅行は1.2倍に増えたようです。経済効果は年に8,000億円と試算されたようです。かなり大きな効果があったようですね。
また、JTB総合研究所の調査によると、「車で行ってみたい地域が広がった」であったり、「今まで行ったことのない観光地に行った」というアンケート回答が多かったようです。高速が1,000円だし遠くまで行ってみようという気持ちをたくさんの人々に喚起させたようです。
ETCの装着率が一気に上がったのも、1,000円高速の効果でした。今では新車を買うと当然のように機器がついていますが、当時は乗っている車に別途取り付ける必要がありました。確か1万円以上したと思います。
しかし1万円払ったとしても、すぐにもとが取れてしまいます。東京大阪を一往復するだけでペイできてしまいます。お金を払ってでもETCをつけた方が明らかにお得でしたので、この時期に一気に普及しました。
デメリットは?問題点は?
たくさんの人々が休日に車で移動しますので、各地で渋滞が多発したようです。高速道路では、例年の2倍程度渋滞時間が増加しました。
道路は物流の要ですので、物流が停滞してしまうことがあると、逆効果になりかねません。遊びに行く人々のために、トラックドライバーなど仕事中の方の邪魔になってしまう恐れがあります。
また並行する鉄道やフェリーの乗客が減少してしまいました。特にフェリーは大きな影響を受けたようです。橋の通行料が高いのでフェリーを利用していたのに、1,000円になっていまうとそりゃ乗らなくなってしまいます。
渋滞を増加させてしまうことと、他の交通機関の収益を減少させてしまうことが、この政策を導入することのデメリットになるでしょう。
道路は利用者負担が原則のはず
車に乗るからこそ道路の利便性を享受することができます。逆に言うと車を持っていない人は利益を得ることができませんから、高速道路の費用を負担する筋合いはありません。車を持っていなくても高速バスは利用するでしょうし、通販で商品を購入するでしょう。なので厳密に言うと高速道路の利便性の利益を得ていない人はほとんどいないのでしょうが、直接利用しているかどうかが問題です。
かつて高速道路は日本道路公団という特殊法人が運営していました。今は西日本高速道路株式会社など地域別の企業として民営化されています。国鉄がJR各社に民営化されたような感じですね。
日本道路公団は日本全国に道路を作りまくり、40兆円という莫大な有利子負債つまり借金をかかえていました。日本道路公団だけが悪いのではなく、地元に高速道路網を引きたい政治家の行動にも問題があったのでしょう。
この莫大な借金。借金は借金ですので、返済しなければなりません。その対策として税金を投入するのはどうでしょうか。税金は日本国民から集めたお金であり、高速道路を利用しない人からも当然徴収されています。なので税金を投入して道路公団を救済すると、受益者負担の原則から反してしまうことになります。直接道路の利便性を享受していない人にも、負担を求めることになるのですから。
そこでなるべく国民には負担をかけずに、何とか借金を返済していけるよう、民営化させてしまうことになりました。元東京都知事の猪瀬直樹氏により推し進めました。詳しくは「道路の権力」という本を読んでみてください。簡単に説明すると、まず地域別の株式会社に分けられました。それぞれの会社は道路の管理、保守、修繕、サービスエリア等の運営を行ないます。これらの株式会社は道路自体は保有しませんし、公団時代の莫大な借金も持っていません。
株式会社とは別に、日本高速道路保有・債務返済機構という独立行政法人が作られました。その名の通り、保有・債務返済機構が高速道路資産を保有し、公団時代の40兆円の有利子負債を返済します。各株式会社は、この機構から道路を借りる形として、機構に使用料を支払います。その使用料が債務の支払い原資となります。
それに道路の運営を民営化することで、コスト削減やサービスの向上が図られました。確かにサービスエリアはきれいになりましたし、楽しいですよね。
1,000円高速を実現するための費用はもちろん税金から出ています。無料化ももちろん財源は税金です。このような民営化の経緯がありますので、受益者負担の原則から逸脱してしまうような税金の投入はいかがなものかという声もあるようです。確かに国民の負担を防ぎ、受益者負担の原則を貫いた結果としての道路公団民営化でしたから、結局税金を道路に入れるんかいっていう意見には一理ありそうです。
個人的な思い出について
高速道路の無料化は、賛否両論でしょう。日々の生活がままならなくなるかもしれない状況のなか、そんなこと言っている場合かというのももっともな意見です。
ただ、個人的には楽しみではあります。もちろん感染が終息した段階の話ですのでいつになるか分かりませんが。過去の1,000円高速では、かなりメリットを享受し、個人的にすごくいい思い出となっているからです。
1,000円高速は2009年から実施されました。その前々年の2007年に新車を購入しており、まさに俺のためって言うようなナイスなタイミングでした。
そのころに登山を始めたのもあり、大阪から信州までしょっちゅう通ったものです。またラーメンを食べるため、九州や東京にも車で足を伸ばしました。橋の通行料も1,000円でしたので、意味もなく東京湾アクアラインを通行しましたし、四国にも良く行ったものです。日本各地様々な場所に出かけて、色々良い経験をすることができました。遊びに出かけることで、経済的にも多少は貢献できたのではないでしょうか。
まあその頃は独身でしたが、今は家族もいますのでなかなかそんなふうに行動するのは難しいですね。コロナが落ち着いてからの事になりますが、もし高速無料化が実施されたら、若い人には是非色んな場所に出掛けて見聞を広めて欲しいものです。
高速道路を無料化するべきか
個人的には色々いい経験が出来た1,000円高速。ただ、各地で渋滞にハマったのも事実です。渋滞に合わないよう、深夜の時間帯に走ったりもしました。果たして今回のコロナショックに対する経済対策として同様の施策を実施するべきなのでしょうか。経済効果以上に、社会的な負担が大きくなってしまうと元も子もありません。
個人的には、何らかの料金割引の措置は導入するべきですが、無料にまでしてしまうのはいかがなものかと考えます。やはり心配なのは渋滞の多発です。遊びの車で道路が一杯になり、貨物の通行が困難になるような事態は避けなければなりません。そのようなビジネス利用を配慮してのことか、1,000円高速は土日限定の施策でした。ただ、実際に走ってみると分かりますが、土曜日も結構トラックの通行量は多いです。経済活動の妨げにはならないようにしたいものです。
とは言っても過去の1,000円高速では、ある程度人々の行動を促す効果はあったようですし、もし導入されると自分自身も家族で色々な場所に赴いて、そこ此処でお金を使ってくるのは間違いないでしょう。個人的には高速料金を下げる政策は行なったほうが良いだろうと思います。
そこで上限金額を2,000円くらいに設定するのはどうでしょうか。
まったくの無料にしてしまうと、1区間や2区間といった本来高速を使用せずに移動する車両まで流入してしまい、交通量が大幅に増加しかねません。こうした近距離移動まで高速を利用して渋滞が深刻化すると、本来利用して欲しい遠距離のレジャー客が敬遠してしまう恐れがあります。
やはりこの施策の目的は、ある程度家から遠い観光地などへの行楽を増やすことだと思います。遠いところへ遊びに行くほうがお金をたくさん消費します。近場だと晩ご飯は家に帰ってからとなるかもしれませんが、遠方だと夜も外食で済ましてしまうかもしれません。泊まりの旅行も増えるでしょう。
例えば自分が住む広島から大阪方面へ休日割引で2,000円分走行すると、岡山県笠岡市あたりまで行けます。土地勘がないと良く分かりませんよね。大阪の人が中国池田から中国自動車道を神戸方面に走行して姫路くらいです。東京インターから東名高速に乗ったとすると、御殿場あたりです。距離はだいたい90km弱で、1時間から1時間半くらいです。あまり近すぎず、上限金額までそれほどハードルも高くなく、2,000円分の距離はちょうどいいくらいではないでしょうか。2,000円だったらという感じで、ちょっとした遠出を喚起できると思います。
合わせて他の交通機関への補助も
高速料金の上限適用は、当然車を所有する家庭のみがメリットを受けることができ、車が無い家庭にとっては不公平な政策であると思われても仕方がありません。それに並行して走る鉄道やフェリー、高速バスなどは売り上げの減少に見舞われることでしょう。
なので高速料金を下げるのであれば、他の交通機関の利用に対しても何らかの補助を出すべきであると思います。地下鉄での移動など近距離の路線はそれほど影響を受けないでしょうから、補助を行なう対象は50km以上といった営業キロで制限を設けるのがいいでしょう。
目的としては、人々の移動に対するハードルを低くして、レジャー需要を喚起しお金を循環させることです。対象を車を所有する人だけに限定すると、効果が限られてしまいます。それに人口の多い都市部では自家用車をそもそも持っていない家庭も多いでしょう。そうした人々にもお金を使って経済を少しでも回してもらうよう、あらゆる交通手段に対して利用のハードルを下げるような政策を導入するのがいいのではないでしょうか。
政府の案では、旅行会社を通した旅行に対する補助も検討に上がっているようです。ふっこう割のイメージでしょう。我が家も北海道のふっこう割を利用し、お得に北海道旅行を楽しんできました。この北海道のふっこう割はかなり人気が高く、初回の募集時には一瞬で売り切れてしまったようです。北海道の観光産業も潤ったのではないでしょうか。
確かにこのようなふっこう割的なものを全国規模で行なうことも、経済対策として効果があるでしょう。もし実際に実施されましたら、是非利用させていただきたいと思います。
ただ、旅行会社を通して旅行するとなると、それこそ気軽にという訳にはいきません。そんなしょっちゅう行けないでしょう。
週末のちょっとしたお出かけをより活性化して、各家庭のレジャーに対する消費をいつもより多めにしてもらうことが、この交通費補助政策の肝であると考えます。一気にドンっとお金を使ってもらうのもいいですが、週末のお出かけでちょこちょこ継続的に消費してもらうことも大切でしょう。